石灰岩や湖成層の化石などから地質時代の生態系像へのアプローチを目指したり、地球科学の普及を目指す高橋唯のHPです。専門は化石を研究する古生物学になり、現在は慶應義塾幼稚舎(http://www.yochisha.keio.ac.jp/)で理科教員として勤務しています。
【連絡先】
慶應義塾幼稚舎 〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿2-35-1
Mail: y.takahashi.geol(at)yochisha.keio.ac.jp
Aiba, H., Souma, J. and Takahashi, Y., A new genus and species of Pentatomidae (Hemiptera) from the Upper Pliocene “Kabutoiwa Formation” in Gunma Prefecture, Japan. Paleontological Research, 28: 1–8, 2024.
またまた鮮新世の兜岩の化石ですが、なんと今度はカメムシ科の新属新種!体長が25 mmとかなり大きく、普通は5節ある触角が4節しかありません。というわけで、ムカシアシアカカメムシ(Tetrapentatoma nishizawai)と名付けられました。本種は東アジアに生息している単系統のグループであるPentatoma-complexに含まれ、その最古の化石記録になります。そのため、Pentatoma-complexのカメムシは少なくとも鮮新世より前には東アジアで繁栄していたということが分かりますね。
Aiba, H. Takahashi, Y . and Sakamaki, Y., A new species of fossil Nymphalidae (Lepidoptera, Papilionoidea) from the Upper Pliocene Motojuku Group, Gunma Prefecture, Japan. Paleontological Research, 27: 441–250, 2023.
群馬県と長野県の県境にある兜岩という鮮新世の産地からタテハチョウ科の新種のチョウ化石は記載しました。このチョウはミスジチョウの仲間で、カブトイワミスジチョウ(Neptis kabutoiwaensis)と名付けられました。前翅に短いのですがCuP脈がある、というのが明らかに現生のものとは異なっています。前翅CuP脈の有無というのは興味深く、始新世のアゲハチョウ科やシジミタテハ科の化石にも見られ、もしかしたらチョウ全体でCuP脈があるというのが祖先的な特徴なのかも知れません。
Takahashi, Y. and Aiba, H., A fossil paper wasp (Vespidae: Polistinae) from the Chibanian (Middle Pleistocene) Shiobara Group in Tochigi Prefecture, Japan. Paleontological Research, 27: 205–210, 2023.
塩原湖成層から国内初のアシナガバチ属(Polistes)に含まれる化石を報告しました。実はこの化石は、小学校の授業(木の葉石を割って化石を探す体験)で見つかったものです。見つけてくれた方は今は大学生になっていますが、化石を見つけたときのことを覚えていてくれているそうです。その話を子どもたちに紹介したら、自分たちも先輩のように新発見してやる、と息巻いていました(笑)。
Takahashi, Y., Fukushima, Y., Tanaka, G. and Miyake, Y., Kasimovian (Late Pennsylvanian) conodont fauna from a limestone block in the Ōtani Formation, Kuzuryu area of the Hida Gaien belt, Fukui Prefecture, central Japan. The Journal of the Geological Society of Japan, 128: 65–73, 2022.
九頭竜湖(福井県大野市)から見つかったコノドント化石を同定したところ、Streptognathodus属の近縁な種が見られることが特徴となる、石炭紀の後期のカシモビアンという時代(の中でも後半です)のコノドント化石の群集であることがわかりました。この時代の国内の石灰岩の実は少なく、小規模な石灰岩のブロックとして点在しています。こういった石灰岩を調べていくと、国内の石炭紀コノドントについてもっと分かりそうです。
本年度からは室戸ジオパーク推進協議会から慶應義塾幼稚舎へ所属が変更になります。ジオパークで学んだ人と地球の関係やその見方、楽しみ方を子どもたちに伝えたいと思います。室戸でお世話になりました方々、短い間でしたがありがとうございます。そして、いずれ子どもたちをつれて室戸に戻ってきたいと思います。
それにしても幼稚舎の理科の先生たちは凄い人ばかりです。昆虫、植物、動物、びっくりするくらい何でも知っています。その中でやっていけるか不安ですが、頑張っていきます!学校内にミュージアムもありますので、是非遊びに来てください。
Tonomori, W., Takahashi, Y., Yamaoka, Y. and Nakao, K., Large-sized cetacean fossils from the Tonohama Group in the Iwado area, Muroto City, Kochi Prefecture, Japan. Bulletin of the National Museum of Nature and Science Series C, 46: 79–86, 2020.
高知県室戸市から中新世後期から鮮新世前期のクジラ化石を報告しました。上腕骨や背骨などの部分的な化石のため属や種は分かりませんが、黒潮発達に伴う日本近海の鯨類の放散過程において、室戸が重要な地点であることが分かりました。
Takahashi, Y., Agematsu, S. and Sashida, K. , Bashkirian–Moscovian (Pennsylvanian) conodonts from the pelagic atoll carbonate of the Omi Limestone, Akiyoshi Terrane, central Japan. Micropaleontology, 66: 351–367, 2020.
新潟県糸魚川市に分布する青海石灰岩は石炭紀からペルム紀にかけての遠洋域の生物相を記録している石灰岩です。この時代は主に大陸縁で形成された石灰岩が詳しく研究されているのですが、遠洋域のものは結構分からないことが多いです。今回は、石炭紀中頃のコノドント相について9属19種の報告を行いました。特徴的なものでは、Declinognathodus属やIdiognathoides属、Neognathodus属、"Streptognathodus"属、Mesogondolella属のコノドントが挙げられるでしょうか。これらのコノドントに基づいて、分帯しています。現在までの秋吉帯石灰岩の主な研究に加え、近年の大陸縁石灰岩の研究にも対比しています。やはり秋吉帯のコノドントは保存状態が良く同定しやすいですね、これは石炭紀全体をいける気がします。
Hayashi, M., Aiba, H., Nakano, E., Takahashi, Y. and Sato, T. (2020) Fossilized water pennies (Coleoptera: Psephenidae) in the Middle Pleistocene Lake Deposits in Shiobara Site, Tochigi Prefecture, Japan. Japanese Journal of Systematic Entomology, 26: 84–86.
塩原湖成層からヒラタドロムシ科の幼虫の化石が見つかりました。成虫は陸生/半陸生ですが、円盤状の幼虫は水生で水底の石にくっついていたりします。水の流れがある場所に生息していますので、当時の湖には川が流れ込んでいたということでしょう。
Nakamine, H., Yamamoto, S. and Takahashi, Y. (2020) Hidden diversity of small predators: new thorny lacewings from mid-Cretaceous amber from northern Myanmar (Neuroptera: Rhachiberothidae: Paraberothinae). Geological Magazine, 157: 1149–1175.
トガマムシ科の昆虫は現在はアフリカの限られた地域にしか生息していませんが、白亜紀には北半球の広いエリアに分布していたようです。今回の論文では4つの新属と7つの新種を報告しており、白亜紀におけるトガマムシ科の形態的な多様性の高さについて議論しています。右の写真は新属新種のUranoberotha chariessaになります、かっちょいい。
【後日談】Twitter(https://twitter.com/mino_insect/status/1281424728352149505)で話題になった箕面公園昆虫館の館長さんの論文作成の様子ですが、面白いです!館長さんを泣かせた山本博士、高橋博士、査読者はきっと悪い人に違いありません。私にはわかります(笑)。
Horiguchi1, A., Aiba, H., Takahashi, Y., Inoue, H. and Sato, T. (2020) First fossil record of a jumping plant-louse (Insecta, Hemiptera, Psylloidea) from Japan. Paläontologische Zeitschrift, https://doi.org/10.1007/s12542-019-00508-4
塩原湖成層から国内初報告となるキジラミ化石を報告しました。キジラミは小さくてあまり化石としては残りづらい昆虫で、現在までに世界から30種程度が報告されています(結構、琥珀に保存されているものが多いです)。しかし、翅脈などからリンゴキジラミ属だと分かってしまうところが塩原の保存状態の凄さですね。形態的にもCacopsylla abietiに近く、寄主植物となるカエデ類も化石としてよく見つかりますが、種までは確定できていません。学部時代の恩師とその学生さんと一緒に論文を書いているのが感慨深く思います。
2019年6月28日の下野新聞(https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/188258)で発見を取り上げてくれています。結構ビッグニュースだったみたいです。
高橋唯 (2019) ジオパーク活動と住民の意識の変化
固有の動植物が見られる室戸は四国における生物多様性のホットスポットの一つに挙げられます。これから生物多様性をどのように維持していくのかという場で、ジオパークを利用して室戸で活動されている方々の考えや実際の様子を紹介しました。深海の資源をモニターしながらツーリズムに利用しようとする例、外来植物を資源化しようとする例、こういった活動を知っていただき、さらに保全の輪が広がっていくと良いと思いますね。
【後日談】Fine Science Laboratoryの方から一緒にサボテンを何とかしましょう、というご提案を頂きました。遂に室戸岬のサボテンにメスが入ります。
【さらに後日談】「ふるさとのいのちをつなぐ こうちプラン大賞」で室戸岬のサボテンを駆除し、飼料として活用していく活動が奨励賞に選ばれました、やったぜ。
Hirano, T., Asato, K., Yamamoto, S., Takahashi, Y., Chiba, S. (2019) Cretaceous amber fossils highlight the evolutionary history and morphological conservatism of land snails. Scientific Reports, 9: 15886.
カタツムリは殻自体が脆く、ほとんど化石として見つからない分類群です。今回は琥珀の中に含まれるヤマタニシ上科に含まれるカタツムリの化石を報告しました。しかも、まず保存されないような軟体部の痕跡、キチン質の蓋や殻に生えている毛も確認できました。改めて琥珀の凄さを思い知りますね。今回、新たに1新属5新種を含む9種を記載しました(形態がほとんど変わってなくてビックリです)。写真の化石は新属新種のArchaeocyclotus plicatulaです。そして、化石種を利用して現生のものを含むヤマタニシの仲間の系統樹の推定を行っています。
今回の研究では、大学院の後輩とも共同で論文作成を行っています。いいですよね、こういうの。
Ogawa, A., Takahashi, Y., Fujita, T. (2019) New wheel microfossils of Ophiocistioidea and Holothuroidea (Echinodermata) from Japan. Zoosymposia, 15: 106-114.
ナマコと絶滅した棘皮動物の仲間の輪状骨片は特徴的な可愛いい形ですが、日本の古生層からはほとんど報告がありません(何ででしょうね?)。青海石灰岩から産出した2種について、現生屋さんに協力してもらってProtocaudina botoniとThalattocanthus consonusを記載しています。
石谷・大野・福岡 (2019) 室戸ユネスコ世界ジオパークのシロウリガイ化石を文化財に https://confit.atlas.jp/guide/event/jpgu2019/subject/O03-P33/detail?lang=ja
室戸市唯一の高等学校である室戸高校に「ジオパーク学」という授業が設けられています。この授業では私たち専門員がサポートしながら、生徒自身が生徒同士や地域にアクションすることで課題を進めていくのが特徴です。2018年度研究をJpGUで生徒たちが発表しました。私は応援しているだけで、特に何かやったということはありません(笑)。
【後日談】高校生の申請は無事通り、2019年6月に室戸市の文化財として登録されました!
Takahashi, Y., Ibaraki, Y., Sashida, K. (2019) Preliminary report of Carboniferous conodont fossils from the Tsuchikurazawa Limestone, Kotaki, Itoigawa City, Niigata Prefecture, central Japan. Science reports of Niigata University. (Geology), 34: 39–47.
コノドントは古生代では特に重要な示準化石ですが、意外と産出例がない場所ってあります。糸魚川市の小滝(飛騨外縁帯)には「土倉沢石灰岩」と呼ばれる大陸縁を起源とする石炭紀の岩体が分布していますが、ここもそういう場所の一つ。今回は「土倉沢石灰岩」から石炭紀前期を示すコノドント化石を報告しました。近くには秋吉帯に属する遠洋起源の青海石灰岩が分布しているので、コノドント相の構成を今後比較していけると面白そうですね。
Takahashi, Y., Sashida, K., Agematsu, S. (2018) Reconstruction of pelagic reef biota of the Carboniferous Omi Limestone, Niigata Prefecture, central Japan.
これまで新潟県に分布する秋吉帯の青海石灰岩は遠洋域の石炭紀ーペルム紀の海山上の礁がプレート運動に伴って付加した岩体です。そのため、青海石灰岩は大陸縁辺とは異なる生物相が存在していた可能性が示唆されています。本研究では青海石灰岩の石炭紀の部分から得られた微小化石群に網羅的に同定を行いました。それらに加え、既に知られている石炭紀のサンゴやアンモナイトや腕足類などの大型化石のデータも全て網羅することで、石炭紀の遠洋域海山の生態系像を復元しました。熱心に説明を聞いてくださっているのは、ジオパーク仲間の山岡さんです(笑)。
Yamamoto, S., Takahashi, T. ( 2018) First discovery of fossil Coloninae in Cretaceous Burmese amber (Coleoptera, Staphylinoidea, Leiodidae). Paläontologische Zeitschrift, 92, 195-201.
タマキノコムシ科は4000を超える種を含む大きな分類群であり、この科の中には6つの亜科があります。その中の一つであるColoninaeの化石についてColon属の新種を記載報告しています。今回の発見によって、Colon属が既に白亜紀中頃には出現いたという、Coloninaeの進化しにとって重要な知見が得られました。
お陰様で学位授与式で博士号(理学)を無事授与されました。博士後期課程での研究が評価され、研究科代表として研究科長賞を頂くことができました。お世話になりました皆様には深く御礼を申し上げたく存じます。
本年度からは筑波大学大学院から室戸ジオパーク推進協議会に所属が変更になります。ジオパークとは地域の持つ地質や文化などの遺産をみんなで守りながら利用することで、地域のことを深く知って発展を目指していこう、という協力するための仕組みです。室戸ジオパークは高知県の東部に位置する室戸市全域にあたりますので、室戸市にお越しの際はぜひお声掛けください。どうぞこれからも宜しくお願いいたします!
Yamada, K., Yamamoto, S., Takahashi, Y. (2017) : Aphrastomedes anthocoroides, a remarkable new cimicomorphan genus and species (Hemiptera: Heteroptera) from Upper Cretaceous Burmese amber. Cretaceous Research, 84: 442–450. (online first)
私が提供した白亜紀の琥珀から新属新種のカメムシ が記載されています。本論文では記載に加え、分類での位置づけや古生物地理、古生態に関しても言及しています。いやー、メチャクチャ保存状態良くて笑っちゃいますね。
Takahashi, Y., Agematsu, S., Rahman, N. M. A. and Sashida, K. (2017): Lowermost Devonian conodonts from the Setul Group, northwestern Peninsular Malaysia. Journal of the Geological Society of Japan, 123: 989-997.
マレーシアの北西部には古生代の地層が連続的に分布していますが、年代などの検討が未だ不十分で詳しく年代がわかっていない場所があります。本研究ではオルドビス紀なのではないかと考えられている石灰岩を詳しく調査したところ、デボン紀初期のコノドント化石が出てきましたという報告です。
Takahashi, Y., Sutou, M., Yamamoto, S. (2017) The compression mating fossil of sciarid fly (Diptera: Sciaridae) from Shiobara, Tochigi Prefecture, Japan. Paleontological Research, 21: 1–5.
交尾行動を示す昆虫化石は世界的に珍しいことが知られています。本論文ではクロバネキノコバエ科の交尾化石を記載し、どのように交尾中の昆虫が保存されるに至ったかを議論しています。本化石は極めて珍しいため、日本古生物学会の会誌表紙に初めて昆虫化石が選ばれました。高校時代のクラスメイトと一緒に研究できることは嬉しい限りです。