コノドント (conodont) はカンブリア紀後期 (約5億年前) から三畳紀末 (約2億年前) の地層から見つかる0.2mm~0.7mm程のとても小さな「歯」のようなリン酸塩の化石です。個人的には史上最強にカッコいい化石だと思っています(笑)。今はいくつものコノドントが集まって動物の摂食器官を構成していたことが分かっており、個々のコノドントはエレメントと呼ばれています。コノドントという名前は1856年にロシアの古生物学者Panderにより命名されました。conodontは「円錐形の歯」という意味ですが、円錐形のものだけでなくギザギザとした櫛状やペタッとした平板状のものなど多様な形態を持ちます。時代ごとにコノドントの形態が異なるため、示準化石として地層の年代決定に用いられており、特に生層序学ではなくてはならない化石の一つです。産出する「歯」状の化石のみが知られていたため、長年そのコノドントを持っていた動物は謎に包まれていました。その後、1983年Briggsらによりスコットランドの石炭紀のGranton Shrimp Bed 層と呼ばれる化石密集層からコノドント (Clydagnathus cf. cavusiformis ) を持つ細長いウナギのような動物化石が報告されました。その動物化石の形態からコノドントの「歯」を持つ動物は脊索動物の仲間だと考えられています。この他にもコノドントを持つ動物化石は、Promissum pulchrumを持つ南アフリカのオルドビス紀後期のSoom 頁岩の化石、Panderodus unicostatusを持つ米国ウィスコンシン州Waukeshaのシルル紀のBrandon Bridge層からの化石が知られています。
個人的に興味深いと思ったコノドントに関する話題を適当な感じで提供します。時としてコノドントですらないかも知れません、そのくらいのいい加減さです。そして、決して備忘録ではありません、そう決して。。。
basal bosyはデボン紀までは見つかりやすい
Suttner, T. J. and Kido, E. (2020) Euconodont hard tissue: preservation patterns of the basal body. Palaeontology, 63, 29–49.
コノドントはcrown tissue とbasal bodyから構成されていて、種同定に用いられるのはcrown tissueの形です。basal bodyはcrown tissue と比べると、カルシウムやリンなどの成分が少なく、続成作用や微生物による穿孔の影響を受けやすくなっています。この研究ではbasal bodyの保存され方の違いから、主に古生代前記のツノ状コノドントのbasal bodyの保存について検討しています。basal bodyは物理的な破壊や微生物による穿孔の影響を受けます。結果として、basal body全てが失われてしますこともあれば、変質した中心部分が残り、リング状の周りの部分がけが分離することもあります(図)。保存されたbasal body(crown tissueから分離したものも含めて)は古生代デボン紀頃まではよく見られるようですが、それ以降は薄く脆くなるためかほとんど見つかりません。確かにデボン紀のコノドントにはbasal bodyがときどき見られますが、石炭紀のものでは見たことがありませんね。
アパタイトの格子定数を比べてみた
Medici, L., Malferrari, D., Savioli, M. and Ferretti, A. (2020) Mineralogy and crystallization patterns in conodont bioapatite from first occurrence (Cambrian) to extinction (end-Triassic). Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 549, 109098.
この研究ではマイクロX線回折分析を用いて、コノドントのアパタイトの結晶学的な格子定数に注目しています。コノドントは異なる年代(カンブリア紀から三畳紀)、分類、異なる地域、異なるCAIを持ったコノドントで調べています。異なる年代のコノドントや同時代(オルドビス紀後期のものを用いてますね)のコノドントの中で異なる分類群や異なる地域で比較しても大きな違いは現れないようです。一方で、パラコノドントとユーコノドントでは、パラメーターのcとaの値を比較すると異なりました。パラコノドントではaの値が小さく、cの値が大きいため明確に区別できます(図)。
コノドント動物って何食べてたの?
Balter, V., Martin, J.E., Tacail, T., Suan, G., Renaud, S., Girard, C. (2019) Calcium stable isotopes place Devonian conodonts as first level consumers. Geochem. Persp. Let. 10, 36–39.
コノドントを持つ動物って何食べてたんでしょうね?それ自体は未だに謎で、大きな動物を捕食するmacrophagous predator、死肉を漁るscavengerという考え方があります。このヒントになる研究があります。デボン紀後期のいくつかの属(Palmatolepis, Polygnathus, Ancyrodella, Ancyrognathus, Icriodus)について、Ca安定同位体の組成を図ることで栄養段階を推定したようです。現在生きている魚類の値と比較したところ、動物プランクトン-低次の魚食者のニッチにあたっています。活発に泳いで捕食していたのか、死肉を漁っていたのかやっぱり分かりませんが、栄養段階的にはこのくらいなんですかねぇ。
石炭紀中頃のコノドントの進化
Hu, K., Qi, Y. and Nemyrovska, T. I. (2019) Mid-Carboniferous conodonts and their evolution: new evidence from Guizhou, South China, Journal of Systematic Palaeontology, 17, 451–489,
石炭紀の前後期の境界を含んでいる中国の2地点におけるコノドントの進化を詳細に検討し、新しい種ではDeclinognathodus tuberculosus とD. intermedius が見出されています。詳しく層準ごとに形態の変化を追っていくと、D. tuberculosusはおそらくGnathodus postbilineatusから派生し、D. bernesgae, D. cf. pseudolateralis やD. intermediusへと進化しています。Declinognathodus bernesgaeはD. praenoduliferus, Idiognathoides macer, Id. sinuatus, Id. corrugatus やId. asiaticus へと移り変わっており、D. cf. pseudolateralis はD. lateralis を経て Idiognathodus primulus へ進化しているようです。Declinognathodus intermedius は Swadelina subdelicata の祖先の可能性があり、 そしてGnathodus girtyi のグループ はおそらくNeognathodus属の祖先です。Neolochriea属のコノドントは Lochriea comutataに由来しているように思えます。一方でD. inaequalis, D. noduliferus やD. japonicusなどのDeclinognathodus属のコノドントの起源ははっきりとしませんが、G. girtyi simplexもしくはD. tuberculosus がそれにあたるのではないかと考えられます。
サイズが小さくなって、そして戻る
Zhang, Z. T., Sun, Y. D., Wignall, P. B., Fu, J. L., Li, H. X., Wamg, M. Y. and Lai, X. L. (2018) Conodont size reduction and diversity losses during the Carnian Humid Episode in SW CHina. Journal of the Geological Society, 175, 1027–1031.
三畳紀後期のカーニアンには気候変動がありました。それまで乾燥していた気候が湿潤化し(Carnian Humid Episode もしくはCarnian Pluvial Event)、堆積場の環境も変化したため海洋生物も多く影響を受けました。大量絶滅の際には、生物の体サイズが小さくなることが知られており、コノドントにおいても確認されています(例えば、P-T境界では貧酸素、食べ物の不足や海水準の変化、Smithian-Spathianでは急速な温暖化の影響が考えられています)。では、Carnian Humid Episode (CHE)の時には、どうだっただろう?という論文です。中国南西部のいくつかのセクションで検討されており、コノドントのサイズはゴンドレラの仲間で形態の近いParagondolella とQudralellaのP1エレメントの長さで計測されています。実際にCHEの際にはコノドントのサイズが減少し、それがCHE後には戻っていくことが確認されました。なかなか興味深いですね。原因については海水温の上昇や海中の溶存酸素量に影響を受けていたと考えられています。
日本からの自然集合体
Agematsu, S., Uesugi, K., Sano, H. and Sashida, K. (2017) Reconstruction of the multielement apparatus of the earliest Triassic conodont, Hindeodus parvus, using synchrotron radiation X-ray micro-tomography. Journal of Paleontology, 91, 1220–1227.
コノドントは基本的にはバラバラになって見つかるので、本来のエレメント構成を保ったまま保存された自然集合体はとても珍しいものです。でも日本からも報告されています。例えば、Agematsu et al. (2015)では三畳紀初期のHindeodus parvusやH. typicalisが見つかっていて、13個のエレメントによって構成されていてることが分かりました。学生時代にその産地の標本を見せてもらって興奮した記憶がありますね。この報告ではHindeodus parvusに対してシンクロトロン放射 X 線マイクロトモグラフィーで撮像しています。3Dの図がカッコいい!その結果、以前の報告は不十分で実際は15個のエレメントによって構成されていたことが確かめられてました。
平らになると良いことがある
Martínez-Pérez, C., Rayfield, E. J., Botella, H. and Donoghue, P. C. (2016) Translating taxonomy into the evolution of conodont feeding ecology. Geology, 44, 247–250.
コノドントの同定に主に用いられるP1エレメントは左右セットのものが歯のように噛み合うことで機能していたのではないかと考えられています。このP1エレメントは異なる属でも、細いものからペタッとした幅広なものになっていくような進化傾向が見れます。今回の研究では有限要素法で噛み合った時の荷重を解析しています。その結果、幅広なP1エレメントの方がより大きな荷重に耐えられるようです(まあ、直観的にもそうですよね)。つまり、この形状変化が繰り返される選択圧に対する応答と捉えることが出来そうです。これが短期間に繰り返されるからコノドントは示準化石になるんでしょうね。
アパタイトで放射性年代を測ってみた
Landman, R. L., Flowers, R. M., Rosenau, N. A. and Powell, J. (2016) Conodont (U–Th)/He thermochronology: A case study from the Illinois Basin. Earth and Planetary Science Letters, 456, 55–65.
4He (α粒子) をウランやトリウムの放射壊変による壊変生成核種として年代測定を行うものが(U-Th)/He法です。この手法はヘリウムを保持し、十分な大きさを持った鉱物であるアパタイト、ジルコンなどを対象にしており、とくにアパタイトでは約70℃の閉鎖温度も知られています。この手法をCAIが1.5よりも低い(最大でも90℃以下の被熱の)コノドントのアパタイトを対象にしたらどうなるでしょうか、という実験を行っています。およそ3億年前のコノドントを用いたのですが、得られた結果は主に約3100万年前から2億年前ほどのバラバラな年代になるようです(図)、なかなか難しいですね。一方で白亜紀後期から新第三紀初め頃の年代を示す傾向のデータセットもあり、この時期の堆積盆における寒冷化や浸食などのイベントを示唆しているものかも知れません。
コノドントは脊椎動物の歯ではない
Murdock, D. J., Dong, X. P., Repetski, J. E., Marone, F., Stampanoni, M. and Donoghue, P. C. (2013) The origin of conodonts and of vertebrate mineralized skeletons. Nature, 502, 546–549.
コノドントと言うと通常、euconodontを指します。euconodontはcrown tissue(エナメル質の硬組織)を持つため、脊椎動物の顎ができる前から歯があったのではないかというinside-out仮説の考え方に繋がりました。euconodontではありませんが、形態的によく似た形を持つparaconodontも存在しています。paraconodontはeuconodontのbasal bodyに近く、paraconodontからeuconodontが進化したかも知れないとされていました。Natureに掲載された今回の論文では、paraconodontのいくつかの種をシンクロトロン放射 X 線マイクロトモグラフィーで撮影し、成長段階を調べています(画像が途轍もなく美しいです!)。その結果、構造がparaconodontのFurnishinaやProoneotodus、Problematoconites、Rotundoconusを経てeuconodontのGranatodontus、Proconodontusへ段階的に構造が変化していることが分かりました。つまりコノドントのエナメル質はその過程で独立して獲得されたものと考える方が良さそうです。おそらく、コノドントと顎を持つ脊椎動物の共通の祖先は硬組織自体を持ってなかったと考えられます。
コノドントは毒を持っていた?
Szaniawski, H. (2009) The earliest known venomous animals recognized among conodonts. Acta Palaeontologica Polonica, 54, 669–676.
オルドビス紀からデボン紀にかけて、縦長の溝を持つ角状のコノドントが繰り返し登場していますが、この溝の機能は分かっていません。今回、一つの仮説が提唱されました。この溝を持つ角状コノドントの形態は、現在の毒を持つ生き物の歯に似ているのではないか、ということです。具体的には、溝が長細く、かつ深い点でナミヘビやドクトカゲの仲間の歯や魚の毒針に似ていようです。こうした角状コノドントは毒を運ぶ機能を持ち、もしかしたら最初期の毒を用いた生物だったのかも知れませんね。角状コノドントは、毛顎動物の獲物を掴むための摂食器にも近いとされていますが、現生の毛顎動物にも獲物を毒で麻痺させるヤツもいるようです。